ハバロフスクの魅力
ロシア極東の街ハバロフスクは、中国との国境から20kmほどの位置にあるアムール川沿いの都市です。人口は約60万人で、ウラジオストクとだいたい同じくらいです。日本で言えば千葉県船橋市や鹿児島県鹿児島市ほどの規模になります。
ハバロフスクは歴史的にロシア極東の中心都市として栄えてきた街ですが、2018年にロシアの地方行政単位である極東連邦管区の本部がハバロフスクからウラジオストクに移転されるなど、「極東の首都」としての地位は徐々に失いつつあるようです。その反面、帝政時代やソ連時代を思わせるノスタルジックな町並みは、ハバロフスクの大きな魅力のひとつとなっています。
目の前の島の半分は中国
ハバロフスクからアムール川をはさんで対岸に見える大ウスリー島(中国名「ヘイジャーズ島」)は長年中国と領有権を争っていましたが、2004年にこの島を半分に割る形で中露国境を画定させたことでも有名になりました。
地図の左下が中国で、赤い点線は国境を示しています。島を半分に割っている点線が2004年に画定された新しい国境です。右上がハバロフスクです。
日本との歴史的つながり
かつて日本軍がハバロフスクに進駐したことがあるといえば、驚く人もいるのではないでしょうか。
日本では第一次世界大戦中の「シベリア出兵」として知られる軍事作戦で、日本軍は米英仏軍と連携し、ロシア革命後の反革命軍を支援する形でハバロフスクにやってきました。その後、日本が支援していた極東の反革命軍が赤軍やパルチザンに敗北して日本軍は撤退。この結果、ハバロフスクはソビエト政権の支配下に入りました。
出典:http://pkokprf.ru/
地図上の青の矢印は日米軍と反革命軍の行動、赤の矢印は赤軍とパルチザンの行動を示しています。
電子ビザでより身近に
ロシアへの観光旅行にはビザの取得が必要ですが、2017年以降、ロシア極東などの一部地域ではオンライン申請による無料の電子ビザでの訪問が可能になり、日本人観光客にとってハバロフスクはより身近な都市になっています。
ただし、電子ビザでは2都市訪問ができなかったり、入国審査で「姓と名が逆」などの申請時の誤記入が理由で入国を拒否されたりといったトラブルがあるようなので注意が必要です。
参考:ロシア連邦外務省「電子ビザ取得手続き」
参考:在ハバロフスク日本国総領事館「観光情報」
治安は大丈夫?
邦人男性がロシア人女性と一緒に歩いていると暴漢に襲われることがあるそうです。酔っぱらいが多いので夜中に単独で出歩くのも控えたほうが良さそうです。
日本・ハバロフスク間の直行便は?
日本からハバロフスクへの直行便は週2便でしたが、2018年10月から週3便になりました。
ウラジオストクの観光スポット
ウスペンスキー教会などの有名な観光スポットから、東部軍管区司令部やミリタリーショップなどのややマニアックな情報まで、2~3日で回れる観光ルートをご紹介します。
スパソ・プレオブラジェンスキー大聖堂
スパソ・プレオブラジェンスキー大聖堂はアムール川のほとりにあるロシア正教の教会で、2003年に建築されたました。観光客向けの博物館的な教会ではなく、寄付によって建てられた礼拝のための教会です。
近年、プーチン大統領の指導により、モスクワのパトリオットパーク敷地内にある「ロシア軍教会」が「手にて描かれざるイコン」という正教会のイコン(礼拝の対象となる平面像)を、ロシア各地の主要な教会に軍の輸送機で届けて回っているようですが、ハバロフスクのスパソ・プレオブラジェンスキー大聖堂には2019年10月に届けられました。
施設の情報
アクセス:バスまたはミニバス「プロシャチ・スラヴィ(Ploshchad’ Slavy)」バス停から徒歩3分
住所:Ulitsa Turgeneva, 24, Khabarovsk, Khabarovsk Krai, Russia 680000
ウスペンスキー教会
ウスペンスキー教会もまた、アムール川のほとりにあるロシア正教会の教会です。建物はソビエト政権下の1930年に一度取り壊されましたが、2002年に新しい様式で再建されました。
施設の情報
アクセス:バスまたはミニバス「チアトル・ユノヴァ・ズリチェリャ(Teatr Yunogo Zritelya)」バス停から徒歩3分
住所:Sobornaya Ploshchad’, 1, Khabarovsk, Khabarovsk Krai, Russia 680000
アムールスキー並木通り
アムールスキー並木通りはハバロフスク駅とアムール川をつなぐ大通りです。中央の並木の部分が広めで森林公園のようになっています。
施設の情報
アクセス:バスまたは路面電車「ジェレズナダロージニヌイ・ヴァグザール(Zheleznodorozhnyj vokzal)」からすぐ
住所:Sobornaya Ploshchad’, 1, Khabarovsk, Khabarovskij Krai, Russia 680000
ハバロフスク駅
ハバロフスク駅はモスクワとウラジオストクを結ぶシベリア鉄道や、近距離電車(エレクトリチカ)の駅です。駅舎は2007年に改修されました。
列車でハバロフスクからウラジオストクまで行くのなら、この駅始発の「オケアン」号に乗ることになります。列車のコンパートメントは相部屋なので、同室の人と気まずくなったり仲良くなったりできます。
駅前の記念碑は17世紀にアムール川流域を探検した、ロシア人探検家のハバロフさんです。彼がこの地に築いた砦は中国の満州族によって頻繁に攻撃を受けました。ハバロフスクの地名はこの人物の名前に由来しています。
当時シベリアではセーブルと呼ばれる高価なイタチ(クロテン)の毛皮を求め、多くのロシア人探検家が部隊を組織して先住民の村々を襲い、貢物を取り立てていました。
施設の情報
アクセス:バスまたは路面電車「ジェレズナダロージヌイ・ヴァグザール(Zheleznodorozhnyj vokzal)」からすぐ
住所:Leningradskaya St, 58, Khabarovsk, Khabarovsk Krai, Russia 680000
こちらは改修前のハバロフスク駅です。
さらにさかのぼって内戦時代のハバロフスク駅と反革命軍の将校。当時は元の帝政ロシア軍が分裂して革命政府軍(赤軍)と反革命軍(白軍)に別れて戦っていました。都市部では白軍支持者が多く、日本軍や米軍は「パンと塩」で歓迎されたそうです。
「パンと塩」はロシアの伝統的な歓迎の風習で、今でも外国の要人を迎えるときなどに、民族衣装を着たロシア人女性が塩の乗ったパンを両手に抱えてチョコチョコと歩み寄るシーンをニュースなどで見かけます。
中央食品市場
中央食品市場はハバロフスクの中心部にある市場(ルイナク)です。毎日約3万人の地元住民や観光客などが訪れる市場で、新鮮な肉や魚、牛乳、山菜、野菜、果物などが並べられています。
付近にはショッピングモールもあり、買い物に便利な場所となっています。
施設の情報
アクセス:路面電車「ツェントラリヌイ・ルイナク(Tsentral’nyj Rynok)」から徒歩3分
営業時間:8:00~19:00
定休日:なし
住所:Ulitsa L’va Tolstogo, 19, Khabarovsk, Khabarovsk Krai, Russia 680000
アムール川
出典:https://russiantowns.livejournal.com/
アムール川は大陸ならではの広大な河川で多くの船が行き交っており、まるで海のように見えます。ただし色は茶色です。対岸のさらに先が中国です。
アムール川にある河川駅(レチノイ・ヴァグザール)では他の都市にいくための河川交通船が出ていますが、観光客向けの遊覧船に乗ることもできます。
施設の情報
アクセス:バスまたはミニバス「レチノイ・ヴァグザール(Rechnoj Vokzal)」から徒歩5分
住所:Ulitsa Shevchenko, 1, Khabarovsk, Khabarovsk Krai, Russia 680000
冬のアムール川は凍ってしまいます。
軍事史博物館
正式名称は「赤旗勲章極東軍管区軍事史博物館」というロシア国防省管轄の博物館です。主にソ連時代の軍事関連資料が展示されており、その歴史にふれることができます。極東軍管区の歴史は日本とも関わりが深いので、観光の前に少しおさらいしておくとさらに楽しめるかもしれません。
施設の情報
アクセス:バスまたはミニバス「ムゼイ・アルヘオロギー(Muzej Arkheologii)」から徒歩3分
開館時間:火、水、木、金曜日10:00~17:00/土、日曜日10:00~12:00
定休日:月曜日
住所:Ulitsa Shevchenko, 20, Khabarovsk, Khabarovsk Krai, Russia 680000
東部軍管区司令部
出典:https://albert-motsar.livejournal.com/
観光地ではありませんが、せっかくなので現在の東部軍管区(旧極東軍管区)司令部を建物だけでも見ていってはどうでしょうか。ただし当然中には入れませんし、あまりウロウロしたり写真を撮ったりすると捕まってしまうかもしれない、やや危険なスポットです。
司令部の建物は非常に古く、19世紀後半から20世紀初頭に建設されたもので、ロシアの文化遺産になっています。2018年には損壊部分の修復工事が行われました。
軍管区はもともと有事に予備役を迅速に動員するための陸軍の単位でしたが、2010年の軍管区統廃合に伴い軍管区司令部には「統合戦略コマンド」としての地位が与えられ、域内の陸海空軍部隊を一元的に運用することができるようになりました。しかし「コマンド」が英語由来であるのが気に入らないのかあまり定着せず、「軍管区」という名称は残り続けています。
東部軍管区はバイカル湖からハバロフスク、ウラジオストク、サハリン、北方領土、カムチャツカ半島、北極圏に至るまでの広大な地域を担当しています。
施設の情報
アクセス:バスまたはミニバス「ウーリツァ・ズナメンシコヴァ(Ulitsa Znamenschikova)」から徒歩5分
住所:Ulitsa Serysheva, 13, Khabarovsk, Khabarovsk Krai, Russia 680028
ミリタリーショップ「ヴォエントルク・ヴォストーク」
ヴォエントルクを名乗るミリタリーショップはたくさんありますが、赤い星が目印のヴォエントルクは、2008年の大規模な軍改革の一環として行われた軍サービスのアウトソーシング化に伴い設立され、ロシア軍に正式な被服装備を納品している企業です。
ハバロフスクの店舗は「ヴォエントルク・ヴォストーク」といいます。東部軍管区司令部から500mほどのところにあります。
施設の情報
アクセス:バスまたはミニバス「スタジオン・イメニ・レニナ(Stadion im. Lenina)」から徒歩すぐ
住所:Komsomol’skaya Ulitsa, 122, Khabarovsk, Khabarovsk Krai, Russia 680028
カフェ「シャシリク・マシリク」
出典:https://khabarovsk.flamp.ru/
ロシアで肉が食べたくなったらシャシリク(肉の串焼き)はいかがでしょうか。ロシアで「ステーキ」を注文するとなんだかパサパサした肉がでてきて、日本人のイメージとは少し異なる気がします。その点シャシリクは日本人でも安心して食べられる料理です。カフェ「シャシリク・マシリク」は中央食品市場近くのシャシリク店です。
一昔まえに流行った「スペツナズ」というロシアの特殊部隊を描いたテレビドラマで、シベリア出身のスペツナズ隊員が「シャシリク食べたい」と言っていたのが印象的でした。シベリアの人は肉が好きなイメージなのかもしれません。
施設の情報
アクセス:路面電車「ツェントラリヌイ・ルイナク(Tsentral’nyj Rynok)」から徒歩3分
営業時間:9:00~23:00
定休日:なし
住所:Ulitsa L’va Tolstogo, 22е, Khabarovsk, Khabarovsk Krai, Russia 680021
ハバロフスクまとめ~旧極東軍管区の歴史
シベリア出兵の日本軍が撤退した後、ソ連は中国北東部の鉄道利権を獲得するため中国の奉天派という軍閥と争うようになりました。ソ連はこの作戦のためハバロフスクに特別極東軍(後の極東軍管区)を設置して戦闘を優位に進めますが、日本が満州事変を起こして中国北東部を鉄道利権ごと奪ってしまいます。
ノモンハン事件
日本は満州国を建国させてその後ろ盾になりますが、ソ連はモンゴルと事実上の軍事同盟を結びこれに対抗します。そこで起こった満蒙国境紛争(日本では「ノモンハン事件」と呼ばれます)で日本軍はソ連極東軍にこてんぱんにやられてしまいます。
出典:http://www.myshared.ru/
上の地図はノモンハン事件時の作戦図ですが、ロシア軍は今でもこの作戦を「両翼二重包囲」と呼ばれる戦術行動のお手本としてよく引用しています。
第二次世界大戦末期
そして第二次世界大戦末期にソ連極東軍は一気に満州になだれ込み、日露戦争で日本に奪われた旅順を奪い返すことに成功しました。なんだか見ていてつらいかもしれませんね。
この作戦も一種の両翼二重包囲と言われています。この作戦で被害にあった日本人女性を救うため、日本では中絶が合法化されました。そして第二次世界大戦後の極東軍管区は、中ソ国境紛争で中国共産党と争うことになります。
極東軍管区から東部軍管区へ
現在のロシア軍には極東軍管区という単位は存在せず、かつての担当地域は2010年の軍管区統廃合に伴い東部軍管区の一部となっています。こうした歴史を頭の片隅に入れながらハバロフスクを観光したなら、ハバロフスクを単なる極東の一都市としてしてではなく、もっと違った側面を見ることができるでしょう。
日本の歴史に深く関わる都市、ハバロフスクに想いを寄せて
ウラジオストクは最近観光地として有名になりつつありますが、ハバロフスクは極東ではまだまだマイナーな都市。観光にもこれから力を入れてくるエリアでしょう。
日本の近代史を紐解いていくと、ハバロフスクは意外と関わりが深いので、明治以降の近代史に興味がある方はウラジオストクから足を伸ばしてハバロフスクも訪れて見てください。
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